世界は謎の泥に徐々に沈んでいた。研究者が必死の調査を行うも泥の除去は叶わず、物質学的なものではない事が分かった。少なくとも、泥は現在各国都市部の地下から滲出しており、物質的な性質を持たずに壁や床を透過し蓄積されている、人が入れば窒息して死ぬといった情報だけが判明しており、それ以上はお手上げだ。一部の終末論者は泥が世界を覆い尽くして人類は滅ぶと本気で信じている一方、インターネットには泥が上がってくるシミュレーションに架空のキャラがボルダリングする映像を作成して笑うネットミームが流行した。

泥は次第に川まで侵食した。なぜ我々が生きているのか分からないが、どうも中から新鮮な水は取り出せ、あくまで人間だけが干渉されるという都合の悪い性質らしい。いざとなれば泥が上がってくるだろう地点を記した防災マップが作成され、私もそれを受け取って計画を立てていた。また、もう一人、いざという時に協力を要請したいボルダリングが得意な友人と想定外への対応について話した。

ある日の夜、私は家族と喧嘩して、家から逃げ出した。そして偶然例の友人の元に向かったのだが、突如として泥が急激に上がっているのが見えた。友人に急いで上へ上がるように指示し、友人は私を抱えて事前に決めたルートに従って近所のガケ、畑の隣の岡、防災マップに記された安全圏まで急いだ。しかし、泥はまだまだ上がってくるのだ。予備計画の実行を指示し、そのまま外れのモンスターマンション群へ走った。ドアを蹴破り、階段を駆け上り、パイプラインを伝って上へ、上へ。その異様な光景に駆け寄る人々はスマホで撮影して、バズ狙いでもしているのか。(そんな暇はないのだが)軽く会釈して友人と共に上へ上がっていき、マンションの頂上ベランダに急ぐ。

それでもまだまだ泥は止まらず、急激に上がるばかりだ。私は悲壮な感覚、少しの偏頭痛を紛らわすために友達に「家にSwitch忘れちゃったな〜」なんて話していた頃、もはや泥は手すりの隙間に到達した。そんな事無意味だと思うが、咄嗟に友達を庇い……

全て夢だったのか、すぐに目覚め、あたりを見回した。何やら妙な感覚があった。するとファンファーレが響き、「貴方は師匠の魂職業に選ばれました」と謎の声が告げる。説明では私の知らない内に国は泥対策を諦めており、秘密裏に生産能力のある国民(基準は不明)にチップを埋め込み、泥で消失した後に電子空間に転生するようだ。そして生前何か大義を成した者は魂職業と呼ばれる称号的なのを得てステータスを割り振られ、それ以外は市民として割り振られる。市民は自動で体力が多い労働者向けのステータスになる。私は直前に友人に指示し、最期に友人を庇おうとしたため師匠に認められたらしい。そんなのはどうでもいい。そして淡々と私の死について伝えられ、一部(高齢者、私の祖母を含む)は電子空間に転生できなかった等の情報を提示された。私の頭は最早自分が死んだという事実で一杯で、ただただ無力に苦しみながら発狂したのであった。

ちょうどそんなところで目を覚ましました。空が夢の中で泥が上がってくる日と同じ色をしていましたが夢の私は博識バーチャルロリに転生できたらしいので気持ちのいい目覚めです(人の心)